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七年前、plainを開店して間もない頃に近所に住まわれるおばあさんが訪ねてこられた。五十年前、新婚時代から育てているモンステラを植え替えに来てほしいという依頼だった。
ご主人は随分前に亡くなり、子供さん方もみな都市部に住んでいる為、記憶にあるだけでも十年以上植え替えていない巨大なモンステラだった。
根が詰まりあげて、気根は部屋中に蔓延っていて、葉は黄変し弱々しいモンステラを眺めているのがとても辛かったけど、誰に頼んでよいのかも判らず。ダメ元でうちに来られたそうだ。
あまりに大き過ぎてとても一人でできる代物でない為、後日大工の若いのを連れて行くことにした。
すると、施工予定日の前におばあさんから興奮気味に電話があり、モンステラの幹から新芽が出てきたというのだ。きっと、あなたが助けてくれると思って、ちゃんと応えてるのよ と。
植物は人間と関われることを最初に実感した出来事だった。
あれから七年、年に2回ほど植物の管理に伺うようになった。おばあさんは八十五歳、ぼくは四十歳になった。
今回は同じく五十年前から育てている八重咲のハイビスカスと、台所の上に飾ってあるライムポトスの植え替えに。
毎度思うのが、築五十年とは思えない室内の設え。細かいところまでよく配慮された、でも決して気取らない感じがとても心地よい。冷蔵庫や洗濯機、掃除機などの家電は当時のMieleで統一されているのもすごい。
どこの建築家に頼まれたのか聞くと、建築家ではなく建てたのは地場の工務店で、おばあさんがあれこれ細かく指定して、それはもう大変だったとか。
それでもこの設えの完成度は設計者と大工がおばあさんの意図をちゃんと理解して造った証拠だと思う。素晴らしい建築。
おばあさんは台所の上にはライムポトスという強いこだわりがあって、水遣りの管理が高所で大変だから、ここに置くのはやめなさいと言っても一向に聞く耳を持たない。
ただでさえ脚が悪いのに、毎回椅子に上がって重たいジョウロで水をあげている姿は想像するだけで危なっかしい。
とうとうこちらが折れて、月に二回植物や家の雑事の管理をしに来ることを提案すると、目を輝かせてお願いされた。だってしょうがないもん、なんかあってからではこっちが後悔するんだし、自宅からも歩いて五分の距離だしね。
作業が終わってからはお茶をいただきながら昔話を一時間聞く。
警備会社の見守りシステムからは時折熱中症注意報、こまめに水分を摂ってくださいのアナウンスが大音量で鳴る。
あっというまに夏だ。