名古屋シリーズ 〜転職の巻〜

その後、社長が探偵になれたのかどうかは判りませんが(笑)、僕は現場に復帰することができました。現場の人たちにその話をするとバカウケでしたが型枠大工の親方と鉄筋屋の親方が僕の獲得に名乗りを上げました。どちらの親方にもよく可愛がってもらいましたし、条件も電気屋よりははるかに良いものだったのでしばらく考えました。ですがひとつ問題が浮上しました。15階建てのマンションの工事はまだ7階か8階くらいで工期は半年以上残っていました。同じ現場内で職人が移動するということはあまりよろしくないことだったようで、ゼネコンの現場所長に「この現場が終わるまでは我慢しなさい」といわれました。しかし、ノブオさんをはじめ、若い現場監督が僕の意思を尊重してくれて、全業者の親方が集まる現場の定例会議のなかで協議の結果、僕は鉄筋屋に移籍することになりました。ゼネコン側も何百人という職人が現場にいるなかで、僕のようなチンチクリン1人の為に動いてくれたようで、僕がまた同じようなことにならないようにいろいろと手を焼いてもらいました。感謝しています。
季節は確かちょうど今時分だったと思いますが、僕は晴れて鉄筋屋デビューを果たしました。朝の朝礼でみんなの前で紹介され、すごく恥ずかしかったです。現場の中で一番下っ端で隅っこにいた若造が、ある日突然頂点に君臨する業者の列にいる訳ですから、驚いた人も多かったようです。ノブオさんは笑っていました。
鉄筋屋の仕事は想像以上にキツかったです。簡単に言うとコンクリートの骨を鉄筋で組むという内容ですが、最初のうちはとにかく運ぶこと。細いのから太いのまで、自分の体重以上のものを1日中運び続けるもんだから、もうふらふらでした。長い鉄筋は地面に着いてしまうので、肩に担いで運ばなければなりません。肩まで上げることすら困難で、まっすぐ歩くことさえままならない状態でした。鉄筋が肩にめり込み、血がにじむほど痛かったです。だけど、初任給で日当1万円、僕は頑張りました。
1か月程で、仕事にも慣れ、僕の肉体は変身を遂げていました。 続く…