名古屋シリーズ 〜地獄篇〜 (笑)

新しい生活にも少しずつ慣れてきて、季節は夏になりました。僕とノブオさんはレインボーティアラ瀬戸というプールやジム付きの巨大なマンションの現場に配属されました。後に僕はこの現場で大きな転機を迎える事となります…。
建築業界では、職種によって格付けがあります。特にビルやマンションの建設現場では権力の差が大きく、一番頂点に君臨するのが型枠大工、鉄筋・鉄骨屋、鳶職で、その後に左官屋や軽天屋、張り屋にクロス屋など様々な業者が続くんですが、電気屋と設備屋(給排水やガス工事など)というのはその中でも一番下っ端なんです。ちゃんと挨拶をしなければいろんな嫌がらせを受けるほどで、現場が始まる前にはノブオさんが大工さんと鉄筋屋さんには必ず金品を包んで挨拶に行ってました。僕も絶対に逆らうなと念を押されましたが、みんなで1つの物を協力してつくるのに…とどうも納得がいきませんでした。
ある日、ノブオさんから「今日は遅くなるから仕事が終わったら仮眠するように」と促され、仮眠後に向かった先はJR名古屋駅でした。山口から出てきて以来久々の名古屋駅で少し地元を思い出して泣きそうになったのを覚えています。僕たちは何人かの他業者の人たちと合流し、終電後の名古屋駅の地下に向かいました。階段をどんどん降りて、途中からは人一人がやっと通れるくらいの薄暗いトンネルに到達しました。仕事の内容は、地下鉄の電気ケーブルを引き換えるというものでした。今日はこの区間からこの区間というノルマがあり、15メートル置きに並び、1メートルで20kgもあるケーブルを朝までひっぱり続けました。地上に出て、始発からにぎわう駅の構内をススだらけの格好で歩いていると、サラリーマンや学生達は僕達を避けて歩いていました。
家に帰ることなく24時間労働というのがそれから幾度となく続きました。僕とノブオさん以外は皆、社長の身内でしたので、そういうのはありませんでした。ノブオさんに愚痴をこぼすと、一緒になって怒ってくれ、それでも頑張ろうといつも励ましてくれました。2日ぶりの銭湯で疲れきってロッカーのカギを閉め忘れ、財布を盗まれた時も随分と助けてもらいました。
入社して3か月が経過し、日給は5800円、夜通し働いても残業は無し。運転免許も取らしてくれる様子も無くちょっとヤバいかな…と思い始めたころでした。 続く